こども家庭庁では、少子化が深刻な社会的課題となる中、不妊症や不育症に悩む夫婦やパートナーが安心して不妊治療に取り組める環境づくりを目指し、「ふたりで、いっしょに。みんなで、いっしょに。」をコンセプトに掲げ「不妊症・不育症のこと オンラインフォーラム」を開催いたしました。
ゲストには、妊活を経て妊娠・出産された安田美沙子さんを迎え、妊娠しやすい身体づくりや仕事との両立の難しさ、そして夫婦での支え合いについて、生活者の関心が高いテーマについて経験談をもとにお話いただきました。
フォーラムでは、MCとしてフリーアナウンサーの登坂淳一さんにご登壇いただいたほか、亀田IVFクリニック幕張院長 川井清考先生や生殖心理カウンセラー(公認心理師・臨床心理士) 平山史朗先生にもご参加いただき、様々な立場から経験談や専門的な知識、精神的なケアなど不妊症・不育症にまつわるトピックが話し合われました。
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川井清考先生講演 <不妊治療のいま>
亀田IVFクリニック幕張院長 川井清考先生の講演では、少子化の要因と不妊の関係や妊娠における基礎知識、不妊治療の流れ、不妊治療保険適用からわかることについて、医師の視点から「不妊治療のいま」というテーマでお話いただき、不妊症や不妊治療に関する知識を深める貴重な機会となりました。
少子化の要因と不妊の関係について、出生数の推移や婚姻件数、平均初婚年齢等の統計データを基に「合計特殊出生率が年々低下しており、少子化の主な原因は婚姻件数の減少や初婚年齢、出生時の年齢の上昇といわれており、不妊症だけが少子化の原因ではないが、不妊は夫婦にとって深刻な問題である。」とご説明いただきました。また、2022年4月から不妊治療の保険適用が開始され、「保険適用により早期に検査を受ける傾向へと変化していることで、治療に進むまでの期間の短縮が見られるようになった」と不妊治療を受けやすくする環境整備の一環として、保険適用が一定の効果をもたらしているとご説明いただきました.
特に関心の高いトピックである体外受精について、治療の流れや方法をご説明いただき、「不妊治療は子どもを希望する方々にとって可能性を広げる重要な選択肢であり、そのためにはまず妊娠に関する正しい知識の普及や治療と仕事の両立を支援する社会的環境のさらなる充実が望まれる」と、不妊治療を“みんなでいっしょに” 考えることの重要性を語り、講演を締めくくりました。
平山史朗先生 <不妊治療中に生じるストレスとの向き合い方>
生殖心理カウンセラー(公認心理師・臨床心理士) 平山史朗先生の講演では、不妊治療を始めるタイミングでの夫婦間の意見の不一致やステップアップ時のストレス、男性不妊の治療とストレスが生じやすい3つの場面を例に挙げ、ストレスとどのように向き合うコツをご説明いただきました。
講演内では、夫婦間の意見の不一致におけるストレスについて「夫婦間での価値観の違いを認めることが重要であり、子どもを望む度合いや熱意の違いが表面化することで衝突が生じることもあるが、それを受け入れる姿勢が大切である」とご説明いただきました。また、ステップアップを勧められた場合のストレスについて、「医師が治療のステップアップを勧める背景には、累積妊娠率に基づいた医学的な根拠があるため、不安を和らげるためには正しい知識を持つことが重要である」と語られました。さらに、「ネット上の情報に振り回されず、主治医に相談することで治療への不安や身体的な痛みに対処できる」と、不妊治療の情報の取捨選択の重要性についても触れられました。男性不妊におけるストレスについては、「女性側が男性に理解してほしいことがうまく伝わらないことが多く、また男性自身も“まさか自分が”という思いから不妊の問題を受け入れにくい傾向がある。こうした心理的なハードルがコミュニケーションの減少を招き、結果的に夫婦間のストレスが増す要因となっている」とご指摘いただきました。講演の最後には、「不妊治療は希望ある未来へ踏み出す一歩であり、夫婦で前向きに進んでいくことが重要である。そのためにも、専門家への相談をためらうことなく考えてほしい」と、不妊ストレスとの向き合い方について語り、講演を締めくくりました。
不妊治療経験者 登坂淳一さん「あなたとパートナーの治療を見つけていくことが大切」
当フォーラムのMCを務める登坂さんも不妊治療の経験者であることから、男性視点での不妊治療についてお話いただきました。
まず、「不妊の原因の半分は男性側も関係していると言われているが、実際に不妊治療を経験した男性の声を耳にする機会は非常に少ないのが現状だと思う」と不妊治療における男性の関与についてお話いただき、「最初に受けた不妊治療はタイミング法であり、その後、段階を経て生殖補助医療である体外受精を行った」と自身が受けた不妊治療についてご説明いただきました。「不妊治療の開始は女性側から始まることが多く私もそうだった。男性の不妊治療は何から始まるのかと看護師の方に尋ねると、男性は“精液検査”から始まると説明を受けた」と、体験談を交えつつ男性の不妊治療の始まりと“精液検査”の重要性についてお話いただきました。また、不妊治療を経験して心に響いた出来事として、「不妊治療について看護師の方より説明を受けた際、『最後に大事なことを申し上げます。不妊治療において最も大切なことは、夫婦で一緒に取り組むことです』と強く言われたことだった」と述べ、その言葉が自身の不妊治療の指針となったと振り返りました。さらに、「多くの治療を受けるのは妻であり、精神的・身体的な負担がかかるのは、女性側であることがほとんどです。実際に男性にできることはそう多くは無い。だからこそどんな治療を受けるのか、どんな薬をいつ飲むのかを理解し、同じレベルの知識を持つことが、私にできる数少ないことの一つだと考え、行っていた」と語り、協力して治療に向き合うことの大切さを語りました。
最後には、「不妊治療というのは希望ある未来へ踏み出すことだと感じている。夫婦で一緒に前に進む一歩を踏み出してみるのもよいのではないか」と、不妊治療を考えている、現在取り組んでいる視聴者へメッセージを送りました。
安田美沙子さん「採卵後に、仕事をしてもよいと聞いてもやっぱり身体はきつかったりした」
トークセッションでは、身体作りや体調管理、仕事との両立、周囲へのカミングアウトや伝え方をテーマに、安田美沙子さんが自身の妊活経験を交えながら実施いたしました。
「妊娠しやすい身体づくりをする上で、大事にしていたこと」を問われた安田さんは、「もともと子宮内膜症だったので冷えやすく、一番気を付けていたのは冷え性対策だった」と回答。「夏でもブランケットや腹巻を使ったり、しょうが入りの紅茶を持ち歩いたり鍼灸医に通ったりと、とにかく自分の身体を温める温活をしていた」と自身の経験談を語りました。一方で、妊娠しやすい身体を作るための行動について、平山先生は「しなければいけないと思いがちだが、忘れたりやらなかったときに不安になるようであれば、そこまで囚われなくてもと自身を見直してみても良いのではないか」とアドバイスを送りました。
また、「仕事と不妊治療を両立する上で特に困難だと感じること」を問われた安田さんは、「スケジューリングが難しかった」と回答。「仕事の前に病院へ行き、その後、真っ青な顔で仕事に行くこともあった。採卵後に仕事をしてもよいと聞いても、やっぱり身体はきつかったりした。」と仕事と治療の両立の大変さを語りました。さらに、ストレスや疲労感など心身への負担と向き合い方について、平山先生は「ただでさえ仕事と家庭を両立するだけでも大変。そこに不妊治療も入ってくる。全てをパーフェクトにやらないといけないと思わずに、家事が少し手抜きになってしまうといった普段のようなパフォーマンスができない事に対して、自分を許していくことが大切」と語り、不妊治療と日常生活のバランスの重要性についてお話されました。
治療中、夫婦関係を良好に保つために重要だと思う事は「お互いを思いやる気持ち」が最多
フォーラム中に実施した視聴者アンケートでは、「不妊治療中、夫婦関係を良好に保つために重要だと思う事は何ですか」という質問に対し、「お互いを思いやる気持ち」との回答が半数以上を占め、最も多く寄せられました。安田さんは自身も、「思い返すと思いやれなかったなと思う」と振り返り、具体的なエピソードとして「思いやる余裕がなくてぶつかることが多かったので、途中からコミュニケーションをメールに切り替えた。最終的に『これって私の問題じゃないよね。2人の問題だよね』と伝えた時に、夫がハッと気づき、自分も当事者なのだということに気づいてくれました。そこから夫婦関係が変わり、結果的にとことん話して向き合えたことが良かった」と、自身の経験を語りました。
また、視聴者アンケートで上位3つに挙げられた「お互いを思いやる気持ち(58%)」「コミュニケーションの充実(19%)」「治療方針についての話し合い(14%)」の回答を受け、川井先生は「うまく病院を使ってくれたらと思う。日常生活の中で不妊治療の話をすることはお互いにとってプレッシャーになる部分がある。僕ら医師ができることは『夫婦で一度お話を聞きに来てください』とお伝えすること。治療の方向性や伝えるべき事など、お力になれることがあれば伝えていくこともできる」と語り、夫婦間の思いやりや話し合いを支援するために医師をうまく使っていただきたいとご説明いただきました。
視聴者の方々へ「医師は子どもを望む方のサポーター、うまく活用していただければと思う」
当フォーラムのゲストとして登壇いただき、ご自身の経験や視聴者の回答を交えながら、不妊症や不育症への向かい合い方についてお話された安田美沙子さん。フォーラムの最後には「皆さんのお話を聞いて、もっと早く知っていたかったと思うことがすごくいっぱいあった。私も妊活をしだしてから知識が増えたが、学校などで子どもの頃からこうした知識を学べる機会があれば早い段階で色々考えたり、病院に行くきっかけになると思うし、そうした時代になればいいなと思う」とコメントしました。
また、川井先生は「不妊治療施設は決して怖い場所ではない。どうしても事実を伝えなければいけない場面もあるが、僕ら医師は子どもを望む方のサポーターなので、うまく活用していただければと思う」とコメントをし、平山先生は「不妊というのは、夫婦関係の初期に降りかかってくる困難だと思う。新婚期の夫婦のルール作りをしていく時期に、突然夫婦の力が試される。困難ではあるけれどもふたりでいっしょに乗り切っていくことで、夫婦の絆が強くなっていく方もたくさん見てきたので、是非そうなっていくといいなと思う」とコメントをし、フォーラムは幕を閉じました。
「不妊症・不育症のこと オンラインフォーラム」アンケート結果
「不妊症・不育症のこと オンラインフォーラム」登壇者
安田美沙子さん(タレント)
1982年生まれ。京都府出身。2児の母。タレント活動の傍ら、ランナーとしてイベントなどにも積極的に出演し、幅広く活動。また、日本の伝統技術とコラボレーションしたブランドfour o fiveで CEOを務める。食育インストラクター、健康食フードコーディネーター、ランニングアドバイザーの資格も取得している。
登坂淳一さん(フリーアナウンサー)
東京都出身。NHKに入局、アナウンサーとして数々の報道番組を担当、「麿(まろ)」の愛称で親しまれる。フリーに転向後、ニュース番組やバラエティー番組などジャンルレスに活躍。不妊治療を経て2021年4月に第一子、2022年5月第二子が誕生。
川井清考先生(不妊治療専門医・産婦人科医)
旭川医科大学医学部卒業。2019年より現職。日本産科婦人科学会専門医、生殖医療専門医。エビデンスに基づいた、わかりやすくていねいな診療で信頼を集めている。最新刊に『ヨム!妊活〜私たち、妊娠できる?編』(主婦の友社)がある。
平山史朗先生(生殖心理カウンセラー(公認心理師・臨床心理士))
東京HARTクリニックなどで不妊当事者・家族への心理カウンセリングに従事。
日本生殖心理学会副理事長。著書に『妊活に疲れたら読む本』(主婦の友社)がある。
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